【ネット時評 : 本荘修二(本荘事務所)】
旧ゲーム産業の終わり、新デジタル・エンタテインメント産業の始まり

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 コンピューターゲーム産業は、任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)の登場以来、家庭用ゲームという一大市場を形成するに至った。この業界は、ときとして大きな変局点を迎える。9/22-24に幕張メッセで催された東京ゲームショウ2006(主催:社団法人コンピュータエンターテインメント協会、CESA)は、今がまさにその変局点、しかも小波ではなく大波に直面していることを示していた。

東京ゲームショウに垣間見える変化

 東京ゲームショウと並ぶコンピュータ・ゲームの祭典であるE3 Expo(Electronic Entertainment Expo、米国で開催)は、来年以降の大幅縮小を決定した。出展社数や出展小間数で「過去最大規模」となった今年の東京ゲームショウも、つぶさに見れば明るい材料ばかりではない。
 ソニーやマイクロソフトは頑張っていたが、総じて「そろい」が悪い。任天堂をはじめ、いくつかの主要なプレーヤーが欠けているし、世界のトップであるEA(エレクトロニック・アーツ)など米国勢もほとんどいない。オンラインゲームで先行する韓国からも、NHNやNeoWizなどは参加していたが、トップのNCソフトやNexonは不参加だった。一方でこれまでコアではなかった分野の比重が高くなった。特にケータイ陣営である。
 これは展示会の問題だけでなく、業界の変化を示唆している。ゲーム市場における日本の凋落(ちょうらく)も背景にあるが、コア・マーケットの斜陽化という現実がそこにある。そして何より、ゲーム産業というとらえ方が、もはや時代遅れになりつつあるのだ。

ノン・ゲームをノン・ゲーマーに

 コンシューマー向け(家庭用)ゲームは、年々マニアックなゲーム・ファン偏重のビジネスへと傾斜してきた。高スペック化で頂点に至るソニーのPS3は、ある意味でその極みと言えよう。
 若干の違いはあるが、そうした傾向の延長上で戦うソニーとマイクロソフト、多くのゲームメーカー。そしてもともと若年層と携帯機(「ゲームボーイ」シリーズなど)に強く、さらに新機軸を推し進める任天堂陣営、と今後の展開は二極化の様相を呈してきた。
 かつてCSK・セガを引っ張った故大川功氏は、「ゲームオタクしかできないようなゲームばかり増えているが、普通の人が遊べるようなものが必要だ。」と語っていたが、近年の任天堂の戦略はそのものズバリである。
 コアなゲーマーではなく、幅広い層に、それもゲームをしない層にもアピールする。そのためには、従来型のゲームの枠を超えたものを提供する。株式市場でもてはやされているオンラインゲームよりも、こちらの方が、はるかにインパクトが大きい「波」である。日本において、任天堂の「脳を鍛える大人のDSトレーニング」が切り開いた「脳トレ」関連市場は、すでにオンラインゲーム総計と同等以上になっている(700億円とも言われている)。ある大手ゲームパブリッシャーは、(任天堂本社がある)京都に主要部隊を移動する計画だ。これは、この波をとらえての戦略的判断による。
 歴史をふりかえってみても、より成熟化していた業務用(ゲームセンターなど)市場では、セガのクレーンゲーム「UFOキャッチャー」や、アトラスの「プリクラ(プリント倶楽部)」など、ビデオゲームを超えた製品が開発され、幅広い顧客を獲得してきた。最近では、小学生親子を対象として大ヒットとなった「甲虫王者ムシキング」「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」(ともにセガ)が特筆される。
 ゲーム業界人は、これらを評して、様々なエンタテインメントをゲームとして見ることの重要性を説きはじめているが、むしろこれはゲームを超えた、あるいはゲームではない、エンタテインメントのニーズとして考えるべきではないのか。

レガシーとの葛藤
 
 2002年のセガ賀詞交換会では、故大川会長の遺志を継いでネットワークに対応する、とソニーやマイクロソフトのトップがあいさつし、反響を呼んだものだが、今回の東京ゲームショウではネット化を重点戦略に掲げる度合いが著しく増している。これは、いわゆるオンラインゲームの粋を超えていると同時に、レガシーとの葛藤をも示している。
 従来のゲーム事業は、典型的なプロダクト・アウト型である。そして大作主義へとひた走ってきた。現に、上位集中度が高く、シリーズものの大作の比重が大きかった。
 しかし、オンラインの本質は、サービスであり、プロダクト偏重の事業構想を基盤とした企業が、サービス中心あるいはサービスとの有効な組み合わせを実現するのは容易ではない。実際、いまのオンラインゲームは、旧世代のレガシーな事業構想が混在しており、本質を見失ったものが少なくない。ネットにつながりさえすればよいのではないのだ。
 もう一つ、今回の東京ゲームショウでひんぱんに聞かれた言葉が「多様性」である。これは、コア・ゲーマー以外の多様な顧客層をとらえた、ニンテンドーDSの成功に触発されたゆえであろう。しかしPS3も、マイクロソフトのXbox360も、大作主義を誘導するゲーム機(1タイトルあたり開発費が大きい)であり、そのレガシーゆえに、言うは易く、行うは難しである。

ネット化の行方

 では、オンラインゲームはどうだろう。最もオンラインゲーム市場が隆盛している国は、韓国、中国、そして米国である。しかし、それぞれに固有の事情があり、日本にそのまま適用はできない。韓国は国策もあって日本のゲームが入らず、ゲーム専用機も普及しなかった。そこにブロードバンドとネットカフェなどの普及で、PC用オンラインゲームが開花した。中国は、不法コピーの根城だったが、ネットカフェでプリペイドで遊ばせるという新流通で急成長した。また両国はかつて「エンタテインメント砂漠」とも言うべき状況にあり、砂漠に水を注ぐかのごとく顧客に受け入れられた。米国は、PC用ソフト製品の機能としてネット対応を加えて、1990年代から一ジャンルを築いた。しかし、最近のEAの赤字にも見られるように、難しい市場でもある。
 DS、PSP、次世代3機種により、ネット対応は当たり前となるため、オンラインゲームという特別のジャンルは終焉(しゅうえん)するかもしれない。ガンホーは、マルチプラットホーム対応で、手軽に遊べるカジュアルゲームなども展開していく考えという。日本でのオンラインゲームは、長期的には市場のごく一部に過ぎない存在になる可能性がある。
 そればかりか、広義のオンライン・エンタテインメントが競合を起こすという状況も見据えなくてはならない。ミクシィなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は、ノンゲーム・エンタテインメントの一つとも言え、ユーザーの時間シェア争いでは強力なライバルである。

 果たして、日本のゲーム関係業界は「成功の復讐」から脱して、新時代の成長機会を捉えることができるか。これからが楽しみである。

<筆者紹介>本荘 修二(ほんじょう しゅうじ)
本荘事務所 代表
ジェネラルアトランティックLLC日本代表、埼玉大学客員助教授。東京大学工学部卒、ペンシルベニア大経営学修士。ボストン・コンサルティング・グループ、米国コンピューター・サイエンス・コーポレーション、CSK/セガ・グループなどを経て現職。社内起業研究会設立以来、起業家精神とイノベーションの研究成果を日米欧で発表している。  著書に「成長を創造する経営:シスコシステムズ爆発的成長の秘密」「日本的経営を忘れた日本企業へ:9万人のベンチャー企業ヒューレットパッカード」、「企業再生(監修)」(共にダイヤモンド社)「IT情報の虚と実」(アスペクト)などがある。

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