【ネット時評 : 江川 央(デジタルメディア・コンサルタント)】
米国の年末商戦に垣間見える、新たな流通革命の予兆

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インターネットメディアと市場調査を手がけるニールセン/ネット・レイティングスより、米国のホリデー・ショッピング・シーズン(年末商戦)に関する調査結果が相次いで発表されている。

米国においては、11月第四週のサンクスギビングを皮切りに、年末商戦の火蓋が切られる。毎年、全国中継されるサンクスギビング・パレードのメインスポンサーは老舗百貨店のメイシーズ。そのパレードの主役は、最後の最後に登場するサンタクロースである。沿道の見物客達に、そしてテレビカメラに手を振り、笑顔を振りまくサンタの姿は、ホリデーそのものの商業化が著しい昨今、子供達に夢を与える人物というよりも、むしろメイシーズに雇われたクリスマス商戦のスポークスマンにさえ映り、テレビを見ていて複雑な心境になるのは私だけではないだろう。


「ブラック・フライデー」と「サイバー・マンデー」

サンクス・ギビングの翌日の金曜日は、「ブラック・フライデー」と呼ばれている。

米国の小売業界にとって、年末商戦は、年間売り上げの50%以上を稼ぎ出す重要な時期。年間を通じて蓄積してきた赤字の業績を黒字転換する為のスタートダッシュの日、というのがブラック・フライデーという名前の由来らしい。

当日は、ウォルマートなど多くの小売業者が、早朝5時あるいは6時から数時間の限定でセールを開始、全国で数百万人規模の買い物客が年末商戦の先陣を切って怒濤のように店舗に押し寄せる。今年に関して言えば、ショッピングシーズンけん引役のウォルマートが通常の一週間前より一部商品の値下げに踏み切った影響か、他の小売店でもサンクス・ギビング当日の夜からセールを始めるところもあり、ブラックフライデーの位置づけそのものにも変化の兆しが見られた。来年、もしサンクスギビングの当日に朝からセールをしている小売店があっても、私は驚かないだろう。それほどまでに、年々、年末商戦は過熱する一方、という印象だ。

こういった流れは、オンラインショップについても同様である。

オンラインショッピングに関しては、過去数年、「ブラック・フライデー」に加えて「サイバー・マンデー」という日も何かと話題になっている。この日は、サンクス・ギビングあけの月曜日にあたり、仕事に戻った人達が職場のインターネットを使ってホリデー・ショッピングを始める、その皮切りの日とされている。

ニールセン/ネット・レイティングスがサンプルとする120のオンライン小売店へのアクセス数を基に算出された「ホリデー eショッピングインデックス(指標) 」 によると、今年はブラック・フライデー当日、ホームユーザーからのアクセスが1920万あり、サイバー・マンデー当日のビジネスユーザーからのアクセス、1610万を上回った。サイバー・マンデー当日だけに限って言えば、自宅からと職場からのアクセスを合計すると、その数は2950万にのぼり、過去の記録を更新している。また、売り上げカテゴリーとしては、衣料やアクセサリーなどアパレル関連がトップで全体の19パーセントを占めている。


オンラインショッピングの影響、いよいよ本格的に

先日、米国人の知人とオンラインショッピングが既存の小売店業界に与える影響について話をする機会があった。

Eコマースが、すでに通称「ブリック・アンド・モルタル」と言われるリアルな小売業界のビジネスモデルに大きな影響を与えているのは誰もが認めるところである。例えば音楽業界では、今年ネットによるダウンロードの普及などが影響して、タワーレコードが破綻に追い込まれる、という象徴的な出来事があった。他の小売業に関しても、明らかに別な形で変化の波が到来しているようだ、というのが私達の出した結論だった。

話のきっかけは、アウトドアブランドである「TIMBERLAND」から私がEメールで受け取った、期間限定の割引クーポンだった。同社のウェブサイトではホリデーシーズンに合わせ、商品によってはすでに定価から30%の割引がなされているが、オンラインでの会計時にこのクーポンコードを打ち込めば、そこから更に40%の割引がなされる、というものである。例えばサンクスギビングの週末に、ニューヨーク近郊にある同社直営のショップで私が目にした定価850ドルのレザージャケットの値段は、店舗内のセールで30%の割引になっていた。これは前述した通り、オンラインでも同じである。ところが、この私が受け取ったクーポンを使えば、そこから更に40%の割引がなされ、7ドルの送料を加えても、最終価格は364ドル(税別)になるのである。平たく言えば、このオンラインクーポンの存在により、リアルの小売りとオンラインとでは、40%もの価格差が生じている計算となる。

TIMBERLADだけではない。例えばおもちゃのような、子供達へのギフトに関しても同様だ。リアルの店舗で品定めをし、のちに自宅からアマゾンなどにアクセスすると、やはり30%ほど割引された値段が表示されるものが少なくない。送料も、ある値段を超えたものに関しては無料だから、消費者にとっては大きな袋を抱えて歩き回る手間も省ける訳で、良い事づくめである。

ペイパルやグーグル・チェックアウトのようなオンライン決済システムの存在も注目されている。前者はユーザーのメール登録を行ない、登録者が提携先のオンラインショップや、eBayで50ドル以上の買い物をした場合には、 ペイパルが20ドルをキャッシュバックするキャンペーンを実施中だ。グーグル・チェックアウトでは、時期にかかわらず、提携先での30ドル以上の買い物に関して、決済時に10ドルの割引を行なっている。

オンライン割引や特典を毎日、日替わりで投稿しているウェブサイトもある。Slickdeals.net と呼ばれるウェブサイトはその一つだ。サイトのユーザー自身の投稿により、リベートを中心とした、様々なお買い得情報がサイト上に掲載される。今や多くの消費者にとって、オンラインショッピングは、賢い買い物をする上でも、日常生活に欠かせないものにもなりつつある。


避けられない構造変革

オンラインショッピングが消費者の間で認知され、人気を博するにつれ、商品を開発・製造し、それを流通させる従来のプロセスには、今後、しかもそう遠くない未来に、新たな、そして大きな変化が生じるのではないか。本格的な流通プロセスにおける「中抜き」を前提としたリストラが急速に進むのではないだろうか。自らの直営店の価格を大幅に下回る価格をオンラインで消費者に提示したTIMBERLANDのような極端な例は別としても、一般的に、メーカー、得に既に消費者の間でブランドの認知度が高い企業が、既存の小売店の位置付けを真剣に見直しつつあるのは間違いないだろう。

従来、メーカーにとって、小売店は消費者と自分たちを結びつける極めて重要なパートナーだったが、消費者から見れば、著名ブランドの商品に関するリサーチをウエブ上で行なう際に真っ先に訪ねるのは、目的とするブランドのサイトである。また、それらの「本家本元」のサイトでは、メーカーの考え方一つで、 消費者への直販システムも構築出来てしまう。つまり、中抜きを成立させる準備は、ブランドサイトを作った段階で、 理論的にはすでに始まっているのである。

メーカー自身が消費者に対して直販を行なう為の障害をクリアし、なお直販システムにかかるコストの採算性が見えれば、今後、小売店を経由した従来の流通から、自社ウエブを中心とした直販体制への切り替えを積極的に導入していく企業は増えてくるだろう。そもそも、中間業者に払うマージンと、それを払うことによるメリットのバランスは、90年代半ばにEコマースが始まった当初から常に議論されてきているし、Eコマースが一般的に認知された事により、いよいよその機が熟してきているに過ぎない。


消えるのは「ブリック・アンド・モルタル」だけか?

アマゾンをはじめとした優良オンラインショップの存在が、過去数年にわたり、Eコマースを支えてきた。ただ、今後、メーカーの立場で売り上げに対するコストのスリム化という観点で究極の議論を進めていくと、取り扱いの商品にもよるだろうが、最終的にはメーカー直営のオンラインショップが販売戦略の中で重要な位置付けとなるのも、そう遠い日の事ではないような気がする。また、それを囲むようにして、売り手としてではなく、消費者を誘導する「アフィリエイト」としての役割を担うポータルや検索サイト、そして、ショールーム的な機能を中心としたリアルの店舗が展開され、長期的には「ブリック・アンド・モルタル」どころか、アマゾンのような巨大オンラインショップでさえも、そういった流れの中に組み込まれていってしまうのではないか、と思うのだ。

今年の春に、数年ぶりに地元のタワーレコードに足を踏み入れた時に見た、あの閑散とした、寒々とした光景を私は忘れることがないだろう。あの時、私は非・生産者ビジネスの立場の弱さをまざまざと見せつけられた気がする。消費者により安い価格で商品を提供するオンラインショッピングの更なる普及により、遅かれ早かれ、これと同じようなことが多くの巨大なショッピングモールの中でも起きるのではないか――そんな予感がしてならない。

<筆者紹介>江川 央(えがわ なかば)
デジタルメディア・コンサルタント
1965年米国ニューヨーク生まれ。1987年、自由学園男子最高学部卒業後、キヤノンに入社。海外マスコミ対応、多国語版社内報制作、F1鈴鹿グランプリにおけるスポンサー・チーム渉外、新規技術広報等を担当した後、1995年よりニューヨーク駐在。同年3月より、キヤノン初のウエブサイト設立を担当、設立後に同ウエブサイトの企画・制作業務を統括。1998年より、インタラクティブ・コミュニケーションズ・マネージャーとして、同ウエブサイト運営に加え、オンライン広告を中心にインターネット・ビジネスの展開に幅広く関与。2001年3月に、キヤノンを退社、デジタルメディア・コンサルタントとして独立。現在はマンハッタンにある大手法律事務所、Debevoise & Plimptonのナレッジ・マネージメント・チームをはじめ、依頼に応じて企業ウエブサイトの開発や、オンライン・マーケティング等に関するコンサルテーションを実施する一方、インターネット関連コラムへの寄稿をはじめ、ビジネス、社会、日米文化等にもテーマを広げた情報発信、創作活動を展開中。

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