【ネット時評 : 坪田知己(日本経済新聞社)】
「つながり」の経済社会を目指して

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日本はこれからどうなっていくのだろう――少子高齢化が現実となってきた今、多くの日本人は、少なからず不安を抱いている。中国や韓国の台頭、情報化もまだまだ進む中で、世界の中で、日本の立ち位置はどこにあるのだろうか? キーワードは「分断社会」を打破して、「つながり」の経済社会を構築することではないだろうか?

デジタルコアメンバーで合宿討論

2006年夏、鳴戸道郎氏(富士通元副会長)と、桑原洋氏(日立製作所元副会長、元総合科学技術会議議員)から、「お願いしたいことがある」と呼び出しを受けた。お二人は、新日本製鉄会長の千速晃氏を会長とする産業競争力懇談会の中核メンバーとして、今後の日本の産業競争力維持について考えておられた。そして、「これからの産業、ひいては経済・社会がどうあるべきなのか、レポートをまとめてほしい」というのが、お二人から私への依頼だった。
 
財界の大御所の方々からの依頼であり、私一人でどうにもなるものではない。今後の日本を考えるには、若い世代の意見を聞かなければならない。

そこで、日経デジタルコアで活躍している30歳代のフレッシュな頭脳のメンバーと私、女性ということで、関根千佳氏金正勲氏、楠正憲氏、神成淳司氏、境真良氏、藤元健太郎氏にメールを送り、協力を求めたところ、全員が二つ返事でOKを下さった。
 
そして、9月中旬の土曜日、10月下旬の金・土曜日にかけて合宿を行ってまとめたのが、「つながりの経済社会へ」というレポートだ。副題は「『分断社会』を脱し、創造者が輝く時代へ」とした。このレポートは、年初には、産業競争力懇談会が、WEB公開する予定だ。
 
「分断社会」を打破したい

我々が問題にしたのは、これまでの右肩上がりを前提にした経済・社会の枠組みでは、もう現実の問題に対応できないということだ。では、今の経済・社会の何が問題なのか・・そこをまず議題にした。
 
一言で言うなら、それは「分断社会」ということだ。「市場での競争」が資本主義の根幹だが、それを無配慮に、あらゆる場所に持ち込んで、競争に駆り立てる・・・それが、我々にとって幸せな社会なのだろうか――ということだ。

教育現場でのいじめ、あるいはニート、企業での「成果主義」によるチームワークの分断――これらは「分断社会」の病理現象だ。

何よりもお金。お金にならないことはしない――そういう風潮が、お互いを支えあうべきコミュニティを壊してきた。
 
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を研究している山崎秀夫野村総合研究所上席研究員は、SNS流行の背景を「接触飢餓」と見ている。人間には、ほかの人と話したい、認め合いたい、愛し合いたい――などという欲求がある。古くは地縁社会の中で、人が触れ合うことは自然に行われていた。

ところが産業の発達を誘引とした、地方から都会への人口移動の中で、「隣人と挨拶もしない」という分断社会が生まれた。そこで封印された接触欲求が、SNSというバーチャルな世界で噴出しているというのだ。
 
合宿で、金正勲氏は、「5つの融合が課題」とした。5つの融合とは、1)商業と非商業の融合、2)経済と文化の融合、3)理性と感性の融合、4)供給と消費の融合、5)仕事と非仕事の融合――だ。この「融合」をやまと言葉にしたのが「つながり」であり、その言葉が提示されたことで、延べ12時間の議論で出た多くの話題が、きれいに整理された。
 
金氏が提示した「供給と消費の融合」は、端的に言えばアルビン・トフラーが『第三の波』で書いた、プロシューマーだ。トフラーは近著『富の未来』で、非金銭的経済の重要性を何度も強調している。すべてを金銭で考える行き過ぎた市場主義・競争主義ではもうやっていけないという認識は、世界的に共有されつつあるようだ。
 
「仕事と非仕事の融合」は、ボランティアな仕事を重視しようという意味だ。団塊世代の大量定年で、ボランティア経済がパワーアップすることは間違いない。 
 
「逆流生産」「複属社員」などを提案
 
レポートでは、いくつかのキーワードを提示した。一つは「逆流生産」だ。部品から製品への加工組み立ての流れの逆方向に、市場から情報流が流れこむ。トヨタ自動車の「かんばん方式」はその代表だ。顧客のニーズにきめ細かく対応することをテーマにすべきだ。

二つ目は、「オープン・スタートの経済」。「売ったらそれでおしまい」という「オープンエンド」ではなく、売った時点から始まるお客さまとの関係性を維持拡大していくという考え方だ。松下電器が石油ファンヒーターの回収に巨額の金をかけているのは、その象徴だ。

三つ目は「規模の不経済」。会社の規模が多くなると、それだけ市場との距離が遠くなり、無駄な人員が、無駄な仕事に精を出してしまう現象だ。

四つ目は「複属社員」。複数の会社に雇用される形で、多様な能力を開花させる人を増やしていこうという考え方だ。
 
このレポートで我々が主張したかったのは、「日本を創造大国にしたい」ということだ。クリエーティブな人材を育て、活用することで、高付加価値生産を維持していくほかに、この国が生き残る道はないと思う。

そのことについて、ITの活用はもっともっと頑張らねばならない。「情報氾濫」「情報過多」と言われるが、我々は「情報過少」とみる。現在の100倍の情報が流通してもまだ少ないと思う。情報過多に見えるのは「整流器」(必要な人に必要な情報を届ける仕組み)が未熟だからだ。それでも、従来の掲示板システムが、SNSに変わっただけで、コミュニケーションはずいぶんスムーズになったではないか。そうした「整流器」をどんどん作り出して行くことが、きわめて重要だ。
 
「次の世代にどんな国を残せるか」
 
このレポートは大変好評で、以後、具体的にブレークダウンして行く方法を考えたい。
 
こうした仕事の依頼が舞い込んだり、それに対して、想定以上の内容のレポートをまとめることが出来たのは、やはり7年間続けてきた日経デジタルコアでの議論の積み重ねがあったからだと思う。
 
2000年に日経デジタルコアを始めて、今日ここまでのことができるとは思わなかった。それは、「ITについて建設的な議論をしよう」という日経からの呼びかけに、多くの有識者が呼応してくださったからだ。実際、政府のIT系の研究会やワーキンググループには、日経デジタルコアのメンバーがたくさん参加している。
 
日経デジタルコアは、8年目になる2007年から、もっとオープンな運営で、議論の輪を広げて行きたいと思う。それは、やはり、今回のレポートの課題のように、「次の世代にどんな国を残せるか」が我々の至上命題だからだ。

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