【ネット時評 : 藤元健太郎(D4DR)】
IT投資最後のフロンティアとなるか?マーケティングのIT化を考える

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進む「企業内プロセス」の可視化
 
 現在、大企業の情報システム部門は、多くが日本版SOX法(J-SOX)対応で大わらわになっている。法制度という大きな背景があるものの、これまで効率化こそが最大の目的だった企業のIT投資も、ここへ来てようやく「見える化」というキーワードの元で変化しつつあると言えるだろう。

 ERP(統合基幹業務システム)導入ブームもひとつの契機となり、企業活動を可視化することのメリットに気づき始めている中での今回のJ-SOX法、という流れもある。これまでの財務データ中心の結果指標管理の概念に、コンプライアンスを意識したプロセスの見える化を大事にするという認識が加わったことで、あらゆる企業活動をデジタルデータとして捕捉しようという動きがますます加速することになると言えるだろう。

 しかし、企業活動の中で大きな投資をしている分野にもかかわらず、相変わらず見えにくいままになっている分野がある。マーケティングだ。マーケティング分野のIT投資と言えばCRM(顧客情報管理)がこれまで一番大きい分野であった。しかし、これまでのCRMは既存顧客であるカード会員やサービス契約者の「管理システム」という側面が強く、マーケティングの中の一部分に過ぎない。同じくコールセンター関連にも大きな投資がされているが、マーケティングの視点から見ればその機能は限定されていると言えるだろう。

 一方で、お金がたくさん使われている広告、宣伝、販促という分野はさまざまな関係企業が絡むわりにはデータはばらばらに存在しているのが常だ。個別担当者がエクセルなどで一生懸命書類を作成し、効果分析し、経営に報告することが多い。経営層がこの分野にITと結びつけて強く関心を持つことは少なかったこともあり、まさにIT投資の未開拓領域になっていたと言える。


広がるeビジネスでの可視化

 そうした中、EC(電子商取引)やeマーケティングの浸透が部分的ではあるがマーケティングのIT化を急速に押し進めている。ECに限って言えば、顧客は全てデジタル世界に存在しているため,その行動は全てデジタル情報で可視化されている。どのホームページのどんなコンテンツを見ているのか、どんな言葉で情報を探しているのか、その結果自社のホームページに何人の人が訪れ、どんなコンテンツを見て、どんな商品を覗いて、結果的に何人が何を買ってくれたのか。これらの情報は全てデジタル情報として企業が入手可能だ。

 Googleやオーバチュアなど、ネット上のプラットフォーム企業が提供するサービスや情報も高度化してきた。キーワード広告なら、きょう現在どの言葉にいくらで関連づけられるか、広告を出した結果何人がクリックし、サイトに訪れ、購買してくれたのかを全部一元管理することができる。つまり、リアルタイムで投資対効果を捕捉することができるということだ。

 ネットへの依存度が高い企業ほど、すでに日々の意思決定はこうした情報を元に行われている。逆にマスメディアや店舗ではこうした情報が取得できないことで、「可視化できていない領域」がいかに大きいか、ということにも気づき始めている。

 今後はマスメディアの広告分野においてもこうした可視化への欲求が強まることが予想される。特にテレビは地上デジタルへ移行するタイミングでもあり、メディアや広告代理店側の可視化への対応も進んでいくだろう。また流通分野でも、すでにPOSの普及による店頭レベルでの単品ベースの販売状況の把握ができるようになっており、さらに今後電子マネーや電子クーポンの普及が進めば、顧客の購買行動の情報もリアルタイムで収集することができるようになる。このようにマーケティング分野のIT化は今後急速に展開し、可視化が広がるものと考えられる。


求められるコミュニケーションのIT化

 企業において、マーケティング分野はこれまで宣伝と販売とが縦割りになっていて連携がとれていないケースも多く、CIO(最高情報責任者)の関心も低かった。今、一気に全社を横断する統合マーケティングシステムを構築しようという企業は非常に少ないのではないだろうか。システムインテグレーターなどITサービスを提供する側からも、まだ一部の先進企業向けBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスがようやく出てきたところで、動きは始まったばかりと言える。

 しかしITによって顧客からメディア、店舗、メーカーまで一気通貫でデジタルコミュニケーションできる手段が整いつつある。すべてのデータを把握し、広告から販売、顧客のロイヤルティー向上、口コミによる再拡大という一連のプロセスを、全体最適なROI(投下資本利益率)を考えながら実行できないものか――ERPに慣れた経営者なら、容易にそのような想像ができるところまで来ている。

 ネット広告とECは年々その存在感を高めている。地上デジタル放送により、マス広告は大きな転換点を迎える。そして無線ICタグの導入など、店舗のIT化が進むことは確実だ。これらの状況からすると,現在のJ-SOX騒動が一段落した後には、いよいよIT投資は企業全体によるマーケティング、という未開の大フロンティアに向かうことになるのではないだろうか。あわせてサプライチェーンの考え方も、今後数年で顧客やメディアや店舗などのコミュニケーションモデルを再構築する「コミュニケーションバリューチェーン」へと概念が拡大し、一企業のIT投資にとどまらず、プラットフォーム構築のような、企業横断を前提にしたものになることが予想される。

 そのための戦略立案は、今すぐに初めても、決して遅くはないと言えるだろう。

<筆者紹介>藤元 健太郎(ふじもと けんたろう) D4DR社長
1993年からサイバービジネスの調査研究、コンサルティングに従事、日本初のビジネス実験モール「サイバービジネスパーク」のトータルプロデュースを行う。99年5月、8年間在籍した野村総合研究所を離れSIPSを手がけるフロントライン・ドット・ジェーピーの代表に就任。2002年にD4DRを設立し,広くITによる社会システムや,ライフスタイル,企業戦略の変革のコンサルティングや調査研究,プロデュースを行っている。デジタルコンテンツグランプリなど各種審査委員も兼ねる。

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