【ネット時評 : 会津 泉(ハイパーネットワーク社会研究所)】
「.日本」「.tokyo」「.eco」新ドメイン誕生と民間主導の重要性――拡大するインターネット空間(上)

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 インターネットが作り出す「空間」が、いま大きく拡大しようとしている。インターネット上の住所・番地を構成するドメイン名とIPアドレスの仕組みが広がろうとしているからだ。
 

 なぜ広がるのか。それによって何が起きるのか。最新動向を紹介しつつ、可能性と課題、そして私たちがどう取り組むべきかを、筆者の経験・観察を踏まえて考えてみたい。今回はドメイン名、次回はIPアドレスについて見ていくことにする。(文中に述べた意見は筆者の個人的見解です)


ドメイン名システムとは

 インターネットの根底を支える技術の一つが、ネット上の資源を識別するアドレス体系で、数字による「IPアドレス」と、英文字による「ドメイン名」の2種類がある。この2つは、インターネット上の「論理資源(logical resource)」あるいは「重要資源(critical resource)」と総称される。IPアドレスもドメイン名も、世界中で重複しない仕組みが用意され、ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)という国際組織が、他の様々な組織と連携しながら一元的に管理している。

 IPアドレスもドメイン名も抽象的な論理上の概念で、物理的な実態を持つわけではない。だがサーバーやルーターなど、インターネットを接続する物理的な設備に特定のIPアドレスが割り当てられることで、世界中のコンピューター同士の接続が混乱なく実現される。現在使われているIPアドレスは、二進数32ビットの数字で構成され、通常は、「124.87.255.255」のように、ピリオドで区切られた最大3文字ずつ4組の数字列で表記される。

 しかし、数字の羅列だけでは覚えにくく、使いにくい。そこで追加されたのがドメイン名で、人間が理解しやすいように、英数字による文字列で構成されている。ドメイン名もIPアドレス同様、世界中で同じものが重複しないように管理されている。あるメールアドレスは世界に一つしかない。だから間違って他人宛にメールが届くことはない。ドメイン名はIPアドレスと対応するように管理され、その対応関係のデータは、DNSサーバーというサーバーで管理運用されている。DNSは「ドメインネームシステム」の略で、全世界に存在する分散データベースシステムによって機能している。

 ドメイン名は階層的に構成され、ピリオドで区切られた文字列の一番右、第一階層を「トップレベルドメイン(TLD)」と呼ぶ。「google.com」というドメイン名では「.com」が、「yahoo.co.jp」では「.jp」がTLDである。第二階層はセカンドレベルドメイン(SLD)、第三階層はサードレベルドメイン(3LD)と定義され、これらの階層構造全体が構成する存在をドメインネーム空間と呼ぶ。「空間」といっても物理的な実態はなく、やはり論理的な存在である。

 TLDには、国別と分野別の二種類がある。国別TLDはccTLD(country code TLD)と呼ばれ、「.uk」「.us」「.cn」など二文字の英文字で構成され、全世界250ほどの国や地域の名称が登録されている。一方、分野別のTLDはgTLD(generic TLD)と呼ばれ、現在は「.com」「.net」など20種類が存在している。

 全世界で登録されているドメイン名は2009年4月現在で1億8300万に達したとの報告がある(ベリサイン社のリポートによる)。そのうち、「.com」が8000万と全体の45%を占め、圧倒的な人気だ。

 ccTLDは総数でも7400万と、「.com」に及ばない。その中では、中国の「.cn」が北京五輪の影響もあってか、昨年ドイツの「.de」を上回り世界一となった。日本の「.jp」は100万を超えたものの、国別ランクでは17位と、上位20カ国の中では低い位置にとどまっている(表1)。

表1 主な国・地域のドメイン名数ランキング(2008年)

ドメイン名数順位 国・地域名
中国
ドイツ
イギリス
オランダ
E U
アルゼンチン
ロシア
イタリア
ブラジル
10 米 国
11 フランス
12 オーストラリア
13 ポーランド
14 スイス
15 カナダ
16 スペイン
17 日本
18 韓国
19 デンマーク
20 ベルギー

出典:Nominet社(イギリスのレジストリ)“Domain Name Industry Report 2008

 この「.com」の運用管理を独占的に扱っているのが米国のベリサイン社で、当然その利益も独占してきたため、ICANN創設当初から今日まで、ベリサイン社とその前身であるNSI社への批判は根強く存在してきた。

 そもそもICANN創設の目的の一つが、「.com」の独占の打破、すなわち競争の導入であった。当時は、TLDの運用管理と個々のドメイン名の販売・登録業務とは同一組織で行われるのが普通だった。しかし前者をレジストリー、後者をレジストラーとして、その機能に応じて組織分離をすることがICANN主導で進められ、ベリサイン社も、レジストリーとレジストラーとに組織的に完全分離することを余儀なくされた。


gTLD「自由化」への道

 ICANN創設のもう一つの大きな目的が、gTLDの増加ないし「自由化」であった。当初、一般の企業や個人が登録できる分野別TLDは、「.com」「.net」「.org」の3つしかなかった。これらは、用途上は商用、ネットワーク用、非営利組織用と一応分けられていたが、申請者についてのチェックは行われず、事実上は誰が登録してどのように利用しても問題とされなかった。

 しかし、ドメイン名の登録は「早い者勝ち」であったため、「.com」に自社の名前を登録しようとしても、誰かがすでに登録していれば、同一の名前を登録することは不可能だった。そこで、例えば「.biz」など他のTLD名を商用に追加すれば、こうした制限は緩和され、競争も推進されると考えられたのだった。

 ただし、これまでICANNではTLD導入への「慎重論」が強く、gTLDはICANN発足以降、今日までに計13追加されたのみ。特に必要性が高いと認められるものが個別に承認されただけで、基本的にハードルは高かった。その結果、世界の誰もが自由に登録できるgTLDは「.info」が追加されただけで、あとは弁護士、医師、会計士に限定した「.pro」、博物館、美術館用の「.museum」、協同組合用の「.coop」、携帯用の「.mobi」など、特定分野・用途に特化したTLDだった。これらは2001年から数回に分けて導入が認められ、最近では2007年にアジア太平洋地域の法人が登録できる「.asia」も導入された。しかし、13という数は、20億人に達した世界中のインターネット利用者と、彼らの展開するビジネス、文化、社会活動などを見渡すと、いかにも少なく、gTLDの「原則自由化」を求める声は根強く存在してきた。

 これらの選定に際しては、普遍的なルールを設定することなく、個々の申請について許可するかどうか個別に審査した。登録商標の保護を優先したい知財関係者、運用上の安定性を重視する技術者などの意見が強かったからだ。こうした選定の恣意性を問題視する意見が強まり、混乱も生じた。その代表例が、「.xxx」の審査で、米国のアダルト業界から出された申請が、一度は理事会で認められたはずだったのが、米国やブラジルなどの政府や保守系宗教団体などからの厳しい批判を受けて、2006年5月に申請を却下する最終決定がなされたのだ。


新gTLD実現への課題

 ドメイン名全般の自由化を求める意見は引き続き根強く存在し、ICANNでは、新gTLD全般の承認の普遍的なルール作りの作業が進められた。これには多くの時間と手間がかかったが、2008年6月の理事会で、原則自由化を中心とする基本ポリシーが決定された。11月には具体的な申請・承認手順とそのためのルールを記したガイドラインの原案が公表され、現在は最終段階に向けて検討が進行中で、早ければ2010年前半にも、一括して新gTLDの申請受付が可能になるところまでこぎつけた。

 すでに「movie」「music」「sport」「eco」「green」「health」「web」など、多くの単語によるTLDが準備されている。「eco」などは複数の団体が申請を予定している。実際には、200や300、それ以上の申請が出る可能性も十分ある。

 所定の手続きに沿って認められれば、上記のような一般名称に加えて、あくまで例えばの話だが「.tokyo」「.京都」などの地名や、「.ibm」「.nike」「.amazon」「.prius」などのブランドや商品名も使えるようになる。「NHK.テレビ」や「カタログ.shop」、「ポニョ.anime」などなど、想像力(と経済力)が許す範囲で、様々な応用が可能となる。

 だが、導入に向けての課題は多岐にわたる。まずは費用だ。当初案では、新gTLDを運用したい事業者には、審査費用が18万5千ドル、合格すれば年間2万5千ドル、プラス1ドメインあたり25セントの登録管理費(総登録数が5万ドメイン以上の場合)をICANNに支払うものとされた。これには小国、小さな言語コミュニティーなどをはじめ、途上国も含めて強い反対の声があがった。ICANN側は、落選者には審査費を最大2割返金するとの修正案を出したが、決着はついていない。2000万円近い審査費について、ICANN側では訴訟対抗費用も含む「実費」だと説明しているが、実際には犯罪などに結びつきやすい安易な申請を防ぐために、意図的に高額に設定したとの見方が強い。

 次に、地名TLDの問題がある。「.paris」や「.北京」などの地理的名称のTLDが導入可能となるが、その場合には該当する国の政府や自治体から「支持」ないし「反対しない」旨の文書を添付することが条件とされる。

 また、使える文字列は三文字以上という制限も出されたが、中国、香港、日本などの漢字文化圏からは二文字を認めるべきだとの意見が出されている。認められなければ「.東京」「.大阪」「.上海」をはじめ、「.会社」「.市民」「.鮨」などなど、漢字二字以内の単語はすべてアウトとなる。

 複数の事業者から同一ないし類似する文字列が申請された場合には、審査またはオークションによって決定される。登録商標の保有者などとの紛争に備えて、異議申し立てを含む紛争処理手順も詳細に定められている。

 審査項目としては事業運営体制、技術力、財務の安定性、コンプライアンス、レジストラー支援体制全体などがあり、ICANNとそのスタッフ、外部専門家などによる審査がなされる予定だ。「公序良俗に反しないこと」という条項もあって論議を呼んでいる。

 ユーザーにとっては、使えるドメイン名の選択肢が広がるため、歓迎する声が強い。ネットビジネスにとっても、より多くの注目を集めることができ、拡販の好機となるだろう。反面、よく似たドメイン名が増えて紛争になる可能性も高く、自社のブランドや登録商標を守りたい企業やフィッシングなどの悪用への懸念の声も無視できない。検索サービスの普及によって、ドメイン名への依存度は下がるとの見方もある。

 しかし、いずれにしても、原則自由化の流れは変わらない。今後ドメイン名は大幅に増加し、その結果、長期的には新たなドメイン名空間が拡大し、インターネットの利用方法も大きく変化するものと予想される。現時点では想像し難いような新種のサービスが登場することも十分考えられる。


多国文字のTLDへの導入

 TLDにはこれまでは英文字と数字しか使えなかったが、ICANNでは、新gTLDの導入を決定したのと同じ2008年の理事会で、漢字やひらがな、ハングル、ロシア文字、タイ文字などなど、多国文字全般のTLDへの導入を承認し、その準備が進んでいる。

 この多国文字の導入については、日本を含めたアジアのインターネットの関係者によって研究開発などの取り組みが長い間続けられてきた。ICANNの創設とほぼ同じ頃、1998年にはアジアのインターネット関係者の連絡グループ、APNG(Asia Pacific Networking Group)に「国際化ドメイン名(Internationalized Domain Name = IDN)」ワーキンググループが設けられ、国立シンガポール大学のタン・ティンウィー氏や、その教え子のジェイムス・セン氏らによって技術的な検討、開発作業が開始されていた。APNGは、二代目の議長が故・石田晴久氏で、日本のインターネットコミュニティーも、漢字などが使えるようになるIDNへの関心は高かった。ジェイムス・セン氏は、IETF(Internet Engineering Task Force)のワーキンググループのチェアを務め、多国文字ドメインの実現に大きく貢献した。また、ICANN理事となった富士通の加藤幹之氏や、NTTから社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)、さらに日本レジストリーサービス(JPRS)社へと移った堀田博文氏ら日本の多くの関係者が、ICANNでの多国文字ドメイン導入をリードしてきた。

 これらの取り組みの結果、漢字(日本語、中国語とも)やハングルなどの多国文字のセカンドレベル以下への導入は、2000年から2001年にかけて実現し、日本では2001年5月に、「.jp」を運用するJPRSによって、セカンドレベルへの日本語の導入が、正式に開始されている。現在、日本語による「.jp」ドメインは13万余りの登録がある。

 多国文字のTLDへの導入に対しては、技術的な安定性や、類似する文字を使ったフィッシングなどへの悪用を心配する声が、主として技術者から強く出されていた。そもそも英文字以外の文字がなぜ必要なのかという、文化や言語、社会に関する価値観の根本的なギャップに起因する反対も根強かった。

 その一方、国連が主催した世界情報社会サミット(2003年ジュネーブ、2005年チュニス)などで、いわゆるインターネットガバナンス(インターネットの管理体制)の議論が高まっていた。米国政府との契約によって成立しているICANNへの批判、欧米中心の管理体制への批判などとセットになって、ロシアやインド、中国、アラブ諸国などから、インターネットのアドレスを自国文字で表記できるようにするのは当然だとの意見が強く出され、多国文字の導入は必須の課題となっていた。インドをはじめ、世界には英字をまったく理解できない人々が膨大な数存在していることを忘れてはならない。彼らもインターネットを使う権利は同等にあるのだ。

 こうした中で、ccTLDについては、gTLDとは別に、各国の管轄のもとで多国文字の実装を早めてもよいのではないかという声が優位となり、早ければ来年前半にも、多国文字によるccTLDが実現する見込みである。


「.日本」は誰が運用すべきか

 多国文字による新しいccTLDは、そもそも誰が管理運用すべきなのか、それは誰が決めるのか。この問題は世界情報社会サミットなどの場で国際的な論争の焦点となってきたインターネットガバナンス問題にも通じる問題である。

 各国で、誰がTLDを運用する主体となるのかは、原則としてその国で決めるべきこととされている。といっても、国家=政府が直接決めたり運用したりする、とは限らない。1998年にICANNができるまでに、多くのccTLDが誕生し、運用を行っていたが、その大半はインターネットをその国に導入したパイオニアでもある大学などの研究者、技術者が中心で、政府の支援や介入はごく少なかった。彼らはICANNの前身であるIANA(Internet Assigned Numbers Authority)のジョン・ポステル氏から、技術能力などの審査や支援を受けて運用を開始していた。

 ICANNの設立以降、ccTLDの選定・変更は、各国の主体がICANNに申請し、ICANNは必要な要件が満たされていることを確認したうえで、米国政府に最終承認を求めるという仕組みになった。この必要要件の中には、当該する国の政府からの文書による承認・支持が含まれる。歴史的な経緯から、ICANNは米国政府との間の法的契約に縛られており、TLDの追加や変更に際しては、米国政府の最終承認が必要とされている。実際には、米国政府が各国からの申請を政治的な理由で拒否した事実はこれまでなかったが、なぜそこに米国政府が関与するのかという点についての議論・批判は絶えない。


情報通信審議会での審議と答申

 ICANNでの新TLD導入の動きを受け、日本では日本語によるccTLDの導入について、関係者の間で検討が行われてきた。

 既存のccTLDである「.jp」は、1997年からは日本のインターネットの導入を推進した関係者らが設立した社団法人JPNICによって運用されてきた。しかし、2000年頃のドットコムブームの影響などを受け、公益法人では機動的な経営が難しいなどの理由で、JPNICが公益性を担保することなどを条件として、2000年12月に民間営利会社であるJPRSを当初100%出資で設立、「.jp」の管理運用をJPRSに段階的に移管することとし、日本政府もこれを承認してICANNに推薦状を送った経緯がある。その後JPRSは、JPNICの持ち株比率も20%弱まで下がり、民間会社として実績を重ねてきた。

 「.jp」とJPRSに対しては、JPNICからの移管の経緯への疑問や、価格が国際水準より高い、サービス品質に問題がある、経営内容が十分に公開されていないといった批判がある一方、スパムやフィッシングなどの悪用が少なく、品質が高く満足しているとの声もある。「.日本」の導入にあたっても、「.jp」同様にJPRSが運用すべきだという意見と、他の事業者に競争の機会を与えるべきだという意見が存在していた。

 総務省は、関係者の意見を踏まえて、「.日本」の公益性を重視し、とくに管理運用事業者をICANNに推薦する責任が政府にあることから、この問題について情報通信審議会で検討することにした。

 こうして、昨年11月から情報通信審議会情報通信政策部会のインターネット基盤委員会で、学識者、消費者、経済団体、メディアなど利用者代表による専門委員に、インターネット関係の事業者がオブザーバーとして加わり、文字列、管理運営事業者の選定方法などについて審議が行われた。その結果、パブリックコメントを経て、今年6月に以下を骨子とする報告書がとりまとめられた。

・日本語のccTLDは「.日本」が望ましい
・「.日本」の管理運営事業者は、公募・比較審査によって選定されるべきである
・選定作業は、民間関係者による協議会が有識者の選定委員会を設置し、公正・中立、透明性をもって行われるべきで、政府はその結果に基づきICANNに推薦する
・「.日本」の管理運営事業者の監督も、同協議会が行う
・「地名ドメイン」の導入について、自治体・地域の関係者に同協議会が対応することが望ましい

 つまり、「.日本」の管理運用事業者(レジストリー)については、ドメイン名の利用の多様性を促進し、市場の活性化を図るためにも、広く公募し、公正なプロセスによる審査で選定すべきだという方向で一致した。審査の主体は、これまで日本のインターネットが民間中心で発展してきたことを踏まえて、関係者などが民間協議会を設立し、その協議会が設置する有識者による中立公平な選定委員会にすべきとなった。

 既存事業者のJPRSの応募も認められることになったが、審査の際に新規事業者が不利にならないようにするという条件が付加された。

 7月10日、情報通信審議会は総会を開き、総務大臣にこの報告書に基づく答申を行った(答申概要答申本文)。


民間協議会発足へ

 こうした流れに沿って、インターネット基盤委員会の構成員・オブザーバー有志が5月初めから様々な会合を重ね、7月16日に「日本インターネットドメイン名協議会(仮称)」(http://jidnc.jp/)の発起人会が開かれた。 これはインターネット協会、テレコムサービス協会、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)の3者が呼びかけたもので、JPNICおよびハイパーネットワーク社会研究所も加わって準備会が構成され、発起人会には一般社団法人であるECネットワークと全国消費生活相談員協会も参加した。日本経団連もオブザーバー参加し、総務省も総合通信基盤局のデータ通信課があいさつを行った。

 7月下旬には協議会についての説明会が開かれ、現在9月上旬の設立を目指して参加団体を増やすなどの準備が進められている。当面は任意団体として活動し、監督業務などの関係から法人化が必要となれば検討するという方針だ。


当面の課題:信頼をどう得るか

 この協議会の第一の課題は、「.日本」のレジストリーをどうやって公正・中立に選定するか、そのために必要な体制をどう作り、信頼をどう得るかということだ。審査基準については、情報通信審議会の答申は概要のみで、具体的な内容や審査の方法までは定めていない。選定委員会の人選も含めて、協議会に委ねられている。

 さらに、この協議会には地名ドメインへの対応、自治体などへの相談・支援業務も期待されている。

 ユーザーに対して実際にドメイン名の登録・販売業務を行うのはレジストラーと呼ばれる小売事業者である。レジストラーたちの信頼を得ること、新たにレジストリーに応募する主体をなるべく多く得ること、何よりユーザーである国民全体の信頼を得ることが求められている。


将来的な課題

 「.日本」のレジストリーを公正中立に選定することは、この協議会の最初の課題だが、そこで仕事が終わるわけではない。新しいレジストリーの業務が円滑に立ち上がるためには、既存の「.jp」との間に協調作業が必要となる。例えば、審議会の答申では、「.jp」のドメイン名の登録者に対して、一定期間、「.日本」を優先的に登録できるようにすると述べられている。これには、新しいレジストリーと「.jp」を運用するJPRSとの間の協力が求められる。

 それ以外にも、答申では、「.日本」の導入のメリットを最大化することが可能となるよう、関係団体と調整が必要と記されている。

 さらに答申では、「今後の検討課題」の中で、「ドメイン関連市場の健全な発展に向けた取組」として、現在JPNICと総務省が行っている既存の「.jp」の公益性についての「監督」業務についても、「.日本」の「監督委員会」を活用することや、我が国の地理的名称に関連する分野別トップレベルドメインの導入に当たり、可能な場合には、協議会の協力を得ることを検討することが必要であると指摘している。

 また、「ICANN等への貢献の拡大」として、「ICANN及びインターネットに関連する国際的な諸活動に対して、我が国からのより一層の国際貢献が求められる。この国際貢献を行う枠組として、協議会やその他の関係団体を活用することが考えられる」と記している。まだ生まれていない協議会だが、かけられた期待・責務はかなり大きい。


動き出したドメイン名ビジネス

 これまで日本では、インターネットの重要資源であるドメイン名やIPアドレスについて、審議会レベルでここまで具体的に審議し、方針を定めたことはなかった。その意味では、今回の取り組みは画期的なことだといえる。しかも、「.日本」のレジストリーの選定や監督は民間主導で行うとし、その意味では、ボールは民間側に投げられたのだ。

 こうした動きに呼応するように、7月末には日本のドメイン名のレジストラー最大手、GMOインターネットが子会社としてGMOドメインレジストリを設立し、新gTLD関連ビジネスへの進出を発表するなど、ドメイン名ビジネスへの注目は高まっている。

 10月末にソウルでICANN会合が開かれ、多国文字ccTLD導入の最終方針が決まる予定である。この後、ICANNの関係者らが東京に寄って、日本のドメイン名事業者などとの交流会に参加することも計画されている。これらがきっかけになって、今後日本でもドメイン名のビジネスがさらに盛り上がることが期待される。

 インターネットの一層の発展に向けて、この協議会に課せられた責任は大きく、可能性も広がっている。ネットビジネスの事業者側だけでなく、経済団体、消費者団体、地域情報化の関係者など利用者側の関係者・関係団体の参加を得て、広く国民全体の信頼に応える公正・中立で透明性の高い選定・監督を遂行するとともに、なによりドメイン名の市場における競争を促進し、グローバルな流れの中で日本のドメイン市場の活性化を実現することがその最大の使命といえる。

 次回は、インターネットの「番地」ともいえるIPアドレスについて、現在使われているIPv4アドレスの在庫の「枯渇」とその意味、必要とされる対策について考えてみたい。

<筆者紹介>会津 泉(あいづ いずみ)
ハイパーネットワーク社会研究所副所長、多摩大学情報社会学研究所教授・主任研究員
1986年ネットワーキングデザイン研究所を設立、パソコン通信の普及を支援し、欧米、アジアのネットワーカーとの交流に取り組む。91年国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)に参加、インターネットの普及を推進。93年大分に設立されたハイパーネットワーク社会研究所に参加、地域ネットワークの新しい方向性を模索。97年マレーシアに移り、アジアネットワーク研究所を設立。アジアへのインターネット普及活動を推進。98年から2000年までアジア太平洋インターネット協会(APIA)事務局長を兼務、インターネットのドメインネーム問題などの政策課題、ICANN設立にかかわり、アジアの意見をグローバルに伝える活動に従事。2000年4月東京に戻り、同12月、G8デジタルオポチュニティ・タスクフォース(DOTフォース)の日本のNPO代表に選ばれ、その活動に参加。2002年-2005年、世界情報社会サミット(WSIS)に市民社会メンバーとして積極参加。利用者中心のネット社会のグローバルな発展をめざす。2003年-2008年、ICANN一般会員諮問委員会(ALAC)委員。2008年、衛星ブロードバンド普及推進協議会の設立に参加、事務局長に就任。電気通信審議会インターネット基盤委員会専門委員。インターネット協会評議員。 著書『パソコンネットワーク革命』(日本経済新聞社)、『進化するネットワーク』(NTT出版)、『アジアからのネット革命』(岩波書店)、『インターネットガバナンス』(NTT出版)、訳書『スカリ-』(早川書房)、『バーチャル・コミュニティ』(三田出版会)ほか多数。

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