【ネット時評 : 築地達郎(報道ネットワーク/龍谷大学)】
次世代大学Webサイトは卒業生にフォーカスする

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 今、自分が所属する大学のWebサイト再構築プロジェクトに関わっています。日本の大学Webサイトの開発コンセプトはだいたい2-3年おきにシフトしてきているようですが、“2009年型”として急浮上してきたのが、「卒業生を囲い込め」というコンセプト。その向こうには、日本の大学が共通して抱える、ある大きな問題が透けて見えます。
 

2007年問題対策はデザイン改革どまり

 大学のWebサイトは、大学という小宇宙の縮図です。企業のWebサイトがマーケティングやIRといった明確な意図のもとで整然と構築されているのに対して、しっかりとした大学のサイトがしっかりと構築されているとは限りません。むしろ、どこか雑然としているサイトが圧倒的に多いと思います。

 やはり学部や学科、ゼミ・研究室・講座の自治という基本原理が今も生きているからでしょう。きちっと区画整理されたオフィス街というよりも、大小さまざまなお店が軒を連ねる商店街のような趣です。

 ところが、2004年頃から状況が変わりはじめました。2007年度に見込まれていた事実上の“進学希望者全入”時代到来を目前に、大学の「ブランディング」戦略の一環として、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を導入し、全学のWebサイトのスタイルを統一しようという動きが出てきたのです。各地の商店街がこぞってアーケード化やカラー舗装に取り組んだ時代を思い出します。

 その先鞭をつけたのが中央大学でした。原則として学内の全てのサイトを統合されたCMSで運用する一方、コンテンツは各部局から直接入力できるようにしたのでした。誰でも簡単に入力できるようにするために、サイトは文字主体とし、デザインも極力統一しました。

 それまでの大学Webサイトは学部紹介パンフレットなどと併せて外注される場合が多かったものですから、ビジュアル的には凝っていても、ちょっとした文字の変更も開発元に発注し直さなければならないといった使い勝手の悪さが目立っていました。デザイン面でも、色やグラフィックはおろか、学園のロゴさえ統一されていない例が少なくありません。

 中央大学は、これを思い切って文字主体の半固定デザインに切り換えることで、大胆な構造改革に踏み切ったのです。この姿勢は、高く評価されました。たとえば、日経BPコンサルティングが2004年度から始めた「全国大学サイト・ユーザビリティ調査」で、2005年度、2006年度と2年続けて首位に立っています。

 それから4年。他の大学も同じ方向に次々と走り出しました。学部の自治を重視する立場からの揺り戻しも若干はありますが、基本的には大学のイメージ戦略のフロントランナーとして、Webサイトの力に期待を寄せる大学人が着実に増えてきたと思います。


卒業生は大学の“財産”

 しかし考えてみれば、これまでのWebサイト改革は、情報の「容れ物」を“平積みヤード型”から“自動倉庫型”に取り替えたに過ぎない──とみることもできます。情報取り扱いのスピードは多少アップしたものの、情報の「中身」やその「機能」は従来の印刷物主体の時代のままと言っても過言ではありません。来るべき、中身や機能に踏み込んだWebサイト改革はどういう方向性を持つのでしょうか。

 そのキーワードの一つが、どうも「卒業生」らしいのです。

 研究や教育が大学にとってのフローに当たるのに対し、ストックに当たるのは実は母校を愛する卒業生なのではないか、という認識が大学人の中で徐々に高まっているのです。

 卒業生のネットワークがどんな領域にどのように広がっているかが大学の真の力を決める、というのは自明の理でしょう。そこに立ち返ろうということです。そうした傾向の中で、次期のWebサイト改革の際には、インターネットを通じて卒業生とつながり続けられる環境をつくりたい、という考え方が出てきたわけです。

 先駆型と思われるのは、東京大学や京都大学が最近スタートさせた「オンライン寄付」です。ネットバンキングやクレジットカード決済を利用して、一般の卒業生から小口の寄付を募る活動を始めました。

 日本の大学経営はこれまで、公的な助成金と学生納付金(学費や入学金)、そして保護者からの寄付金によって成り立ってきました。早稲田大学(2007年度)の場合、帰属収入(企業の売上高に当たります)に占める「学生生徒等納付金」の比率は64.5%に達します。以下、補助金10.9%、事業収入8.4%となっていて、寄付金はわずか4.6%(45億円)、資産運用収入は3.6%(35億円)に過ぎません。これは日本の私立総合大学の平均的な姿でしょう。国立大学法人になった東京大学の場合も、寄付金の比率は経常収益(売上高)の3.7%(73億円、2007年度)に過ぎません。

 要するに毎月の月謝でやりくりする私塾と同様の経営実態なのです。

 それに比較して、例えば米ハーバード大学の場合、寄付金の「配当収入」が総収入の33%(10億6000万ドル≒1,112億円、2007年度)に達します。何しろ、寄付金ファンドの残高が349億ドル(3兆6645億円)ですから、まさにケタ違いです。

 いきなりこの域に達するのはもちろん無理でしょう。しかし、今後確実に国庫助成が減り、少子化の中で学生納付金が増える理由もない日本の大学にとって、寄付金を増やすしか生き延びる道はないように見えます。東大や京大のオンライン寄付は地味な取り組みですが、実は非常に大きな一歩なのかもしれません。


大学人の意識改革の契機に

 Webサイトを少し建て直したからといって、卒業生の囲い込みがすんなりできるわけがありません。在学中の教育サービス改善や教育のバックボーンになる研究の向上など、地をはう努力の先に答があるのでしょう。その結果として卒業生が社会で大いに成功したときに、初めて、寄付という形の“配当”が生まれるのです。

 日本の大学は従来、学生に“通過点”のような場しか提供してこなかったように思います。大学の現場で学生をしばしば「お客さん」と呼ぶ事実はそれを裏付けています。それに対して、「卒業生にフォーカスする」ということは彼らとのネットワーク、つまり運命共同体を築くということです。

 次世代Webサイト構築のための議論は、大学人に対して根本からの意識改革を迫ることになるかもしれません。

<筆者紹介>築地 達郎(つきじ たつお) 報道ネットワーク社長、龍谷大学社会学部准教授
 1960年生まれ。日本経済新聞記者を経て95年独立。97年に報道ネットワークと京都経済新聞社を設立し、報道業界改革の提言と実践に取り組む。2005年から龍谷大学准教授。  著書は『ジャーナリズムの条件(第3巻「メディアの権力性」)』(共著、岩波書店)、『ロボットだって恋をする』(中公新書ラクレ)、『ビル・ゲイツが大統領になる日』(ウェッジ)、『CALSからECへ』(日本経済新聞社)など。

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