【ネット時評 : 碓井聡子(日本ユニシス)】
Web2.0の先にあるもの

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 最近、10年ぐらい先の“中未来”を予測する仕事と縁がある。今でもなく数年先でもなく、かといって30年先ほど遠い未来でもないのが10年先。今回はそんな目線で「Web2.0」の先にあるものを考えてみたい。

ゆっくり進んだドッグイヤー

 Web2.0と言われている世界は、もともとインターネットが普及したときに期待されていたことそのものを指しているように思える。
 ちょっとおさらいしておこう。インターネットのおかげでお店は、商品を陳列する「売り場」から、消費者が主導権を持って店と商品を選ぶ「買い場」に変わった。膨大な情報をバックに自分の価値観に合う店と買い場所を求めるのは消費者だけではない。例えば魚を積んだ船は、その日に自分の荷を一番高く有利にさばける港を選んで運べるようになる。そして、消費者は情報をもとに判断し購入するだけでなく、その結果をリアルの場での口コミと同じく、ブログを使ってネットの中で呟(つぶや)き始めた。「世界中の人と自分は6人の知り合いでつながっている」という説があるように、ともかく呟きが伝播するスピードは井戸端会議の比ではない。企業は、モノを言いモノを伝える消費者の振る舞いを織り込んだマーケティングへの転換を迫られるようになった。
 インターネットが普及しはじめて10年、ようやく、当初想定されていたバイヤードリブンの世界が実現されたように思える。期待されていたことが10年経ってようやく実現された、と考えると、ドッグイヤーも意外とゆっくりだったということかもしれない。

Web2.0の先にあるもの

 インターネットのインフラ整備、飛躍的な情報コストの低下によりWeb2.0は実現した。消費者を主人公とした生活がようやくスタートしたのである。情報を与えられるばかりでなく、自ら発信し、積極的に自分にメリットのある使い方を探す、あるいは情報同士をつなぎ合わせる、という意識的が10年の中で消費者に埋め込まれてきた。多分、ここからの進みは速いだろう。仮にこの先にあるものをWeb3.0と呼んでみるならば、消費者が望むのは、Webの中の「皆のナレッジ」と自分だけの「ユニークな情報」を組み合わせた究極のカスタマイズではないだろうか。消費者の立場で考えてみると以下のようになる。

・5年前のWebの世界:時間・場所・情報量のからの解放
・現在のWeb2.0の世界:消費者(マス)主体の情報提供・共有とコンテンツ連携
・予想されるWeb3.0の世界:個人ユニーク情報とWeb情報、モノ-モノ情報の融合による究極のカスタマイズ

 ここで書いているWeb2.0とWeb3.0の大きな違いは2つある。ひとつは個体のユニークな情報が可視化され管理されるようになること、そして情報受け渡しのネットワークがインターネットだけでなく各種無線・有線通信、モノ-モノ通信にまで広がることだ。
 例えば測定された健康診断情報や、脈拍や毎日の睡眠時間などの生体情報、食事内容や測定歩数などの生活情報など健康に関する個人情報は、現時点では可視化されていないか、または可視化されていても別々の場所で別々の機器で別々の媒体で管理されることが当然になっている情報である。こうした個人の生活上の振る舞いから得られる情報が、「健康」などの目的に応じて、日常測定され、可視化され、組み合わされ、シミュレーションされて、価値ある情報となって個人に返されることになるだろう。そうなると、もはやWebに限られた情報の交換だけでは物足りず、Webも含むモノーモノ通信の世界での広い情報交換を前提とした分析がおこなわれることになる。こう考えるとWeb3.0という言い方は、おそらく適切ではなく、ユビキタス2.0という方がよいのかもしれない。

サービスの形が変わる

 こうした動きの兆しはすでに様々な場面で見られる。振る舞いの可視化に関しては、業務効率化やノウハウのIT化の観点で、科学的営業や、「匠の勘」のITによる可視化という形で一部実現されている。そこでは、センサーや無線技術、高度なシミュレーション技術などが必須の要素として使われている。これらの手法が、消費者サービスに応用されても何ら不思議はないだろう。個々の家電や家の設備同士を無線や有線のネットワークでつなぐ規格も続々と登場しているし、個人をセンシングしてデータ管理する単体のサービスも出始めた。例えば米国で発売されたナイキ製シューズと「iPod」を連携させた健康グッズでは、シューズに埋め込んだセンサーを電波でiPodに送信し、走行距離や消費着カロリーなどを音声で伝えてくれるという。
 これは単純な情報取得と分析の一例だが、こうしたサービスがあちこちで提供され、個人が労をとらずとも情報が連携され、総合的に分析・提供されるようになると、新しいサービスのかたちが現れそうだ。消費者はモノ単体の機能ではなく、モノに当たり前のようについてくるネットワークや情報やサービスなど、目に見えない価値の方を評価して買うようになるかもしれない。

企業が試される10年のはじまり

 しかし、こうしたサービスは単一のネットワークだけでも単一の事業者の努力だけでもなしえないことは明らかだ。その点に企業側はもちろん気づいているが、従来の収益モデルを変えることにもなりかねないため、これまでは、互いに横を見つつ技術を眺め、と「様子見」を決め込むケースが大半だった。
 今までの10年は、インターネットが登場し、消費者がそれをどう受け入れどこまで使いこなせるか、いわば消費者自身の振る舞いの変革が試された10年だった。これからの10年は、企業側がどこまでサービスの世界を描きあげ、その実現のために現在の商品提供のスタイルから脱却できるかが試される10年なのかもしれない。

<筆者紹介>碓井 聡子(うすい さとこ)
富士通総研 ビジネスデザインコンサルティング事業部 マネジングコンサルタント
1997年から海外ネットビジネスに関する調査・発信を手がける。Webを含むITを活用したビジネスおよびマーケティングの企画立案、戦略設計に従事。インターネット、IT自体の「性質」を知り尽くし、既存ビジネスに、新規ビジネスに、そして企業(社員)自身の競争力強化のためにどこまで使いこなせるかが、企業生き残りの鍵となると考えている。 近年の主な企画立案・戦略設計・調査テーマは以下の通り。
■既存事業の中でInternetインフラ、Webメディアをどう使いこなすか
■IT環境の普及や中国市場開放という環境の中、新規ビジネスで何ができるのか
■マーケティングツールとしてどう使いこなすか
■HRM(Human Resource Management)、eラーニングの観点から、企業自身、社員の競争力をどう高めるか)
 
主な著書:「インターネットビジネス白書2002」、「既存企業VSドットコム企業」(監修)、 「図解B2Beコマース」(共著)

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