【ネット時評 : 本荘修二(本荘事務所)】
バズワードを通り越したWeb2.0

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 「Web2.0」という言葉がはやり始めて2年ほど経った今年の11月15-16日に、東京・渋谷のセルリアンタワー東急ホテルで日本では初となるWeb2.0 EXPOが開催された。2005年にWeb2.0を提唱したティム・オライリー(Tim O'Reilly)氏率いるオライリーメディア社が共催するカリフォルニアのイベントを東京に持ってきたものであり、2日とも氏がキーノートを務めた。来場者数こそ米国に及ばないが、参加した方々は一様に大きな刺激を受けたと語り、会場は熱気を帯びていた。それもベンチャーやネット企業だけでなく、ITユーザー企業を含んだものであった。


バズワードだったWeb2.0

 梅田望夫氏の著書「ウェブ進化論」(ちくま新書)がベストセラーとなったのが2006年春。そのころから、日経はじめ新聞・雑誌にWeb2.0(ウェブにいてんぜろ)という言葉が踊るようになった。しかし、騒がれる割には多くのビジネスマンにはあまり受け入れられないという現象が見られた。

 たとえば、2006年4月13日に日経デジタルコアが開催した勉強会「WEB2.0の論点整理と将来展望」では、Web2.0について解説する講師と、聴衆にまわった通信・インターネットの専門家たちの間には、少なからず温度差が見受けられた。その後も、世間にはWeb2.0ブームに沸き立つベンチャーを中心とする人々と、冷ややかな大勢という、あちら側とこちら側に分かれたいびつな構造があった。インターネットの専門家ですらそうなのだから、多くの大企業がWeb2.0を無視したのは無理もない話だった。

 Web2.0を名乗って金集めをするベンチャー企業は米国に続いて日本にも数多く現れ、一部の成功例もあったが、日米ともに一時的なブームだったと一般的には捉えられている。つまり、Web2.0はバズワードに過ぎず、ちょっとしたバブルのようなものだと見られていたのである。


企業にとってのWebの位置づけ

 Web2.0とは何か? 報道されたオライリー氏 とひろゆき氏(「2ちゃんねる」や「ニコニコ動画」で知られる)の対談に、その答えをみることができる。

 その会話が示唆するのは、Web2.0を定義すること自体にはあまり意味はないこと、Webが重要になり、価値をもたらすということ、具体的な現象としてWebがIT業界構造を変革しつつある、ということだ。また彼らは、「ネットワーク外部性」という特徴にも着目している。

 もっとも、変わるのはIT業界の構造だけに止まらないだろう。まずテクノロジーのあり方が変わる。例えば、「SaaS」のように、ソフトウエアはWebサービスとして提供されるものになろうとしている。

 さらに、Webを中心としたデジタルネットワーク革命を通して、顧客・市場が変わる。顧客同士がつながり、顧客の情報発信が購買行動に影響するようになりつつある。例えば、9割の顧客が購買にあたりWebと接しているとも言われる自動車会社は、選択の余地なく、すでに積極的にWebに取り組んでいる。

 また、Webは企業のコミュニケーションも変えつつある。企業ブログを積極化する米国企業が増え、いくつかの日本企業が社内SNSを導入している。

 Web2.0の定義が問題ではなく、この変革にどう対応するかが大切なのだ。もはや、ほとんどのビジネスにおいて、Webを無視するということは難しくなるだろう。

 こういう背景もあって、日本初回のWeb2.0 EXPOには、ベンチャー企業やギークス(ネット業界人・技術者)だけでなく、多くの大企業ビジネスマンが足を運んだのである(EXPOの情報はhttp://www.honjo.biz/blog/を参照)。まだ始まったばかりのイベントだが、筆者が話を聞いた大企業の方々は一様に大きな刺激を受けていた。そうした刺激が混じりあい、組み合わさることで、役に立つ技術やサービスが生まれることを期待したい。


日本のチャレンジ

 日本は携帯電話によるWeb利用の先進市場だ。すでに、いわゆる「勝手サイト」が携帯キャリア公式サイトのトラフィックを超えている。しかし、Webやネットワークの世界では、海外企業の技術が先行する傾向が強い。携帯電話の分野で日本企業がどこまでがんばれるかは大きなチャレンジである。

 そうした技術的な話以上に大きな課題なのが、Webの「活用」をどうするかということである。2007年2月に上梓した拙著「大企業のウェブはなぜつまらないのか」(ダイヤモンド社)は大企業のマネジャーに向けてWebの意味と取り組み方を説いたものだが、刊行して9カ月経つ今も研究会や社内教育など講演依頼が絶えない。

 そこではWebにとどまらず、セールス・マーケティング全体の見直しに議論が及ぶことが多い。そもそも日本の大企業はマーケティングそしてコミュニケーションについて米国企業より遅れている。Webだけではだめなのである。これはWebを活用する大企業側にも、それを支援する技術・サービス会社にも共通の課題と言っていいだろう。


<筆者紹介>本荘 修二(ほんじょう しゅうじ)
本荘事務所 代表
上武大学客員教授。東京大学工学部卒、ペンシルベニア大経営学修士、早稲田大学博士(学術:国際経営)。ボストン・コンサルティング・グループ、米国コンピューター・サイエンス・コーポレーション、CSK/セガ・グループ、ジェネラル・アトランティックLLCなどを経て現職。社内起業研究会設立以来、起業家精神とイノベーションの研究成果を日米欧で発表している。著書に「大企業のウェブはなぜつまらないのか」「成長を創造する経営:シスコシステムズ爆発的成長の秘密」「日本的経営を忘れた日本企業へ:9万人のベ ンチャー企業ヒューレットパッカード」、「企業再生(監修)」(以上ダイヤモンド社)「IT情報の虚と実」(アスペクト)などがある。

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