【ネット時評 : 湯川 抗(富士通総研)】
企業買収の裏に見える“Web as a Platform”の世界

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 Microsoft(MS)がYahoo!への買収を提案してから2カ月近くが経過した。この2カ月が実際よりも長く感じられたのは、この間インターネット上で様々な報道、意見、うわさが飛び交い、毎日のようにこのニュースに触れたためかもしれないが、MSがこの短期間にYahoo!以外の複数の企業買収を発表し、さらにほかにも買収交渉を行っている企業があると報じられたせいでもあるだろう。
 

 昨年10月に米サンフランシスコで開催された「Web 2.0 Summit」に登壇したMSのスティーブ・バルマーCEO(最高経営責任者)は、今後4、5年の間、年に20社程度のペースで買収を行う意図を明らかにした。2006年にGoogle、Amazon、Yahoo!、MSの4社が買収した企業数の合計が26社であったことを考えると、この計画は壮大だ。
 
 MSとYahoo!の件は特別に話題になっているものの、インターネット企業の買収は毎日のようにメディアを賑わせている。こうした企業買収が、どのような意図の下に行われたのかは当事者しかわからない。しかしマクロの視点で見ると、こうした買収の裏にはWeb2.0の提唱者であるTim O’Reilly氏が最初に「Web2.0の原則」として挙げた“Web as a platform”の世界が加速の一途をたどっているという現実があるように思う。


進展するプラットフォームとしてのウェブ

 “Web as a Platform”の進展を示す最もわかりやすい例は、FacebookとOpenSocialによるSNSプラットフォームの覇権争いだろう。この場合、どちらのWeb Applicationがより多くの開発者に支持されるかの争いになるが、結局のところ、アプリケーションの開発者が従わなければならないのは、それぞれのWeb Applicationが定める開発方式であり、今やWeb Application自体がパソコンのOS(基本ソフト)のように機能しはじめている。つまりプラットフォームとしての存在感を増している。
 
 “Web as a Platform”という概念をさらに大きくとらえると、インターネット自体がサービスの提供チャネルとして成熟し、それを様々なユーザーが活用し始めていることだといえるだろう。SaaS(サース、Software as a Service)の発展はその一番顕著な例だが、ほかにも様々なものがインターネットを介して「as a Service」として提供可能になりつつある。例えば、IaaS(Infrastructure as a Service)、HaaS (Hardware as a Service)、DaaS (Database as a Service)などという言葉も生まれているし、さらにはOSaaS(OS as a Service)、 DMaaS (Data Mining as a Service)、VaaS (Visualization as a Service)など「as a Service」の世界は広がりをみせている。確かに、これらの多くはバズワードといえるだろう。しかし、こうした言葉が生まれていること自体、以前から言われていた「Utility computing」の世界、つまりインターネットを通じて、様々な資源が流通し始めていることを示している。


既存の大企業によるインターネット企業の買収の増加
 
 最近GoogleやAmazonのような、大手のインターネット企業だけでなく、既存の大手ICT企業が新興のインターネットベンチャーを買収したり、出資を行うケースが目に付く。
 
 例えば、HPによるTabbolo(写真共有サイト)の買収、 NokiaによるTrollTech(複数のプラットフォームで稼動するアプリケーション開発のためのツールである「Qt」の開発元)とTwango(パソコンや携帯電話など、様々な機器からアクセスできるコンテンツ共有サイト)の買収、IBMによるXIV (データストレージ技術)の買収、Sun MicrosystemsによるMySQL(オープンソースのデータベースソフト)の買収――。いずれもこの1年以内に行われたものだ。こうした大企業による買収劇の裏側には、“Web as a platform”の世界に対応するために、すでにその世界での技術や知名度、顧客ベースをもった企業を買収することで時間を買おうとする大企業の思惑が見える。
 
 
コンシューマービジネスで生まれた技術革新がエンタープライズへ波及

 “Web as a Platform”の世界は、これまで主にコンシューマー向けの事業を行う企業の間で開拓されてきた。だがコンシューマー分野でサービス技術やノウハウを蓄積した企業が、買収を通じてエンタープライズ分野(企業向け)のサービスへ事業展開を開始するケースも増加しつつある。
 
 昨年9月のYahoo!によるZimbra(オープンソースのグループウエアソフト)買収もエンタープライズ分野のビジネスへの布石と考えられるし、Googleの買収戦略にも同様の意図が見える。Gmailのように、コンシューマービジネスでの技術革新を生かして、通常の企業向けのサービスを展開する企業よりも高度で低価格の製品やサービスを提供するものもある。
 
 また、Haasの代表例として挙げられる、AmazonのEC2(Elastic Compute Cloud、自社の保有するコンピューターの処理能力をネット経由で利用させるサービス)やS3(Simple Storage Service、オンラインストレージサービス)はAmazonがコンシューマー向けのサービスによって培った技術を企業向けに販売するものであり、すでに多くの企業に活用されていることが、今年の1月に起こったS3の障害発生時に明らかになった。


裏にあるのは“Web as a Platform”

 単一のIDで複数のWEBサイトを利用できるよう取り組みを進めているOpenID Foundationや、ネット上のデータの移動をスムースに行えるよう活動しているDataPortability.orgといった団体の活動が支持を集めつつあることからも、Web上で個人が自由に活動するためのインフラが進展しつつあり、現在我々が活用している“Web as a platform”の世界は今後さらに拡大していくことが推測できる。
 
 MSのYahoo!に対する買収提案も、先に挙げた大手企業によるインターネット企業の買収も、その裏にはこのような状況に対する危惧があると考えられる。今後、IT関連サービスのプラットフォームはWeb上に移行する可能性が高く、このプラットフォームに積極的に関与していないと、サービスだけでなく、ハードウエアなど、ほかの商品にも付加価値をつけることが困難になると想定した買収戦略ではないだろうか。そして、今後、このような買収戦略は国境を超えて展開していくと思われる。


<筆者紹介>湯川 抗(ゆかわ こう)
富士通総研 経済研究所上級研究員
1965年 東京都生まれ。1989年上智大学法学部卒。96年コロンビア大学大学院修了(MS)。2005年東京大学工学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。現在、横浜市立大学国際文化学部非常勤講師。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを兼任。専門はインターネット企業の動向とクラスター。【執筆活動】「進化するネットワーキング
」(2006年、共著)、「情報系マイクロビジネス」(2001年、共著)「クラスター戦略」(2002年、共著)など。
 
ホームページ
http://www.fri.fujitsu.com/jp/modules/specialist/list_03.php?list_id=9024


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