【ネット時評 : 片瀬和子(未来工学研究所)】
「WiMAX」で国際競争力強化・台湾のIT戦略

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 日本では、2009年7月1日にUQコミュニケーションズが次世代高速無線技術「モバイルWiMAX」の有料サービスを開始した。これに先立ち、台湾では、大同電信が2009年4月27日より南部の澎湖島で、7月8日より高雄市でWiMAX(大同電信は一部固定系のWiMAXも提供しているため「モバイルWiMAX」ではなく「WiMAX」と記載する)サービスを有料で提供し始めている。
 

 私は、2009年3月、台湾の政府機関、通信事業者、調査研究機関を訪問し、WiMAXサービスおよび関連産業の動向について話を聞く機会があった。現地調査結果とその後得られた情報から、台湾におけるWiMAXサービスおよび関連産業の戦略と現状について考えてみたい。


台湾のWiMAXライセンス取得事業者

 台湾ではWiMAX事業のオークションが行われ、2007年7月26日に下記の6通信事業者がNCC(National Communications Commission・國家通訊傳播委員會)よりWiMAX施設建設およびサービス提供整備のライセンスを交付された。ライセンスの有効期間は、最長で14年半である。

台湾のWiMAX施設建設・サービス提供整備免許取得通信事業者
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注1)1台湾元は約2.83円(2009年9月9日現在)
注2)北区と南区での電波使用料の違いは、県の数の差異によるものである。

 WiMAXライセンス取得事業者6社のうち、旧来からの移動体通信事業者は遠伝電信、大衆電信(PHS)の2社のみであり、他の4社はいずれも新規事業者である。台湾政府は、通信事業者間の競争関係を強め、市場を活性化させるべく、中小規模の新規通信事業者にもWiMAXサービスのライセンスを与えたのだ。

 台湾最大の通信事業者である中華電信はWiMAXのオークションに落ちたが、直接WiMAXサービスを提供できない代りに、全球一動に10%出資している。また、6社のうち、全球一動を除く5社は、政府機関の支援を受けて「M(Mobile)-Taiwanプログラム」でWiMAX関連の実証実験プロジェクトを展開していた通信事業者である。

 各事業者とも、「2009年7月までにWiMAXサービスを開始する」という条件でライセンスを得ている。サービス提供体制が整った時点で改めてNCCにサービス提供の申請を行い、認可を得た後、正式にWiMAXサービスの提供を開始できることになっている。

 だが実際のところ、2009年7月にWiMAXサービスの提供を開始している事業者は、南部の大同電信1社のみだ。北部の全球一動は、10月から北部の新竹市のサイエンスパーク内でサービス開始が決定している。


技術仕様と通信速度

 台湾のWiMAXライセンス取得事業者は、いずれも2005年12月に世界標準となったIEEE802.16e に準拠したネットワーク構築、基地局建設、CPE(Customer Premises Equipment・顧客宅内装置)やチップセット等の調達を行っている。

 台湾で提供されるモバイルWiMAXサービスの通信速度は、最大で上り40.4Mbps、下り10.6Mbps(10MHz帯域,IEEE802.16e-2005)とされている。実際に台湾の通信事業者が保証している通信速度は、サービス提供を開始している大同電信でも、下り平均3Mbps、上り1Mbpsである。これは、1端末当たりの利用可能帯域が限られているためである。大同電信の担当者は、このことを「有線是無限、無線是有限」(有線のネットワークの通信速度は無限であるが、無線ネットワークの通信速度は限られている)と称している。(以上、2009年3月の大同電信へのインタビューによる)


台湾のグローバル戦略

 台湾政府は、台湾を最先端のIT産業の集積地にしたいとの意向がある。WiFiなどで培ってきた技術力を生かしてWiMAX関連の技術開発を進めるのも、台湾を世界のIT産業のテストベッドにしようとしているからだ。

 また、第三世代携帯電話サービス(3G)のは特許を持つ海外の企業に高額なロイヤリティーを支払い続けなければならないが、WiMAXは3Gよりもロイヤリティーが少なく、国内の機器メーカーの収益向上が期待できる。

 このような背景のもと、台湾政府はWiMAX関連産業のグローバル戦略を立て、推進している。このポイントは、次の2点である。

(1)グローバル展開による世界シェアの獲得

 第一のポイントは、WiMAXのCPEメーカーをグローバル展開させ、世界シェアを獲得することである。

 台湾の人口は約2300万人。PC保有率が人口の80%を超え、携帯電話の加入率は100%を超える。しかしそもそもの市場規模が小さいため、製品・サービスの海外展開を積極的に行い、国際的なシェアを獲得することが必須である。

 台湾政府は、「WiMAX関連製品の輸出増加、グローバル市場での優位性獲得のためには、まず域内市場の確立が必要」と判断し、世界に先駆けて2005年よりWiMAXを含むモバイル・アプリケーションの実証実験プロジェクト「M-Taiwanプログラム」を開始した(2009年終了予定)。

 M-Taiwanプログラムは、ヘルスケア、ラーニングといったアプリケーションの実証実験が主体がとなっているが、その究極の目的は台湾の得意とするCPE分野のグローバル展開である。同プログラムでは通信事業者に基地局整備費等の助成を行ってWiMAX実証実験体制の整備を促し、その際必要となるCPEを域内のメーカーに開発提供させる機会を設けた。

 台湾政府は、通信サービス、アプリケーションなど国内市場に留まる分野と、世界市場に打って出られるCPE分野を切り分け、世界市場でのシェア獲得という明確な最終目的達成のために実証実験プロジェクトを推進しているのである。

(2)国際的事業者との積極的な連携

 台湾のWiMAXグローバル展開における第2のポイントは、国際的な事業者と連携を図り、台湾企業を活性化させることである。その内容は、下記の4点に大別される。

①台湾政府とMoU(Memorandum of Understanding、覚書)を取り交わす。
②台湾にR&Dセンターやオペレーションセンターを開設させ、台湾内で開発・運用のテストを行うようにする。
③台湾企業とのジョイントベンチャーの設立、OEM/ODM関係の締結により、事業展開において国際的な連携を進める。
④CPEのProcurement Hub(調達の中心地)となり、他国のユーザー向けCPEの製造拠点となる。

 台湾政府は2005年、アルカテル・ルーセント(ALU)、インテル、モトローラ、NEC、NSN(ノキア・シーメンス・ネットワーク)、ノーテル、スプリント・ネクステル、スタレントといった海外の事業者とMoUを取り交わし、台湾のWiMAX市場への参入の際、域内のWiMAX関連企業への協力を約束させた。各社とも、この覚書に則って市場への参入を進め、2008年、再度拡大してMoUを締結している。

 台湾のCPEメーカーは、これらの国際的事業者との連携によって、グローバル展開可能な製品を世界市場に投入し始めている。


台湾のWiMAX市場構造は「エコシステム」

 台湾では、すでにICチップ/モジュール、CPE、ピコBTS(小型基地局)、コアネットワーク(基地局、基幹ネットワークシステム)、試験認証、サービスインテグレーション&コンテンツプロバイダー、WiMAX事業者まで、WiMAX市場に参入した約260社が集積し、密な連携による研究開発、効率的な調達、端末からネットワーク、アプリケーション・コンテンツまでトータルなソリューションの提供が可能である。

 このようなWiMAX関連産業の集積、連携は「エコシステム」と称され、台湾政府もWiMAX関連産業の経済効率性の高さをアピールしている。

 台湾の政府系調査研究機関 産業情報研究所(MIC)によると、台湾のWiMAX用CPE製品の出荷台数は2009年第2四半期には50万台を突破し、対前期比88.7%増と市場が急速に拡大している。出荷先は域内よりも、ロシアをはじめ海外が中心である。日本にも、CPEのうち、USBドングルやRemote Radio Head(RRH)モジュールが出荷されている。


大同電信のWiMAXサービス

 大同電信は、2006年に政府のM-Taiwanプログラムに参画し、政府から高雄県、屏東県、花蓮県3県分のWiMAX基地局建設費用10億台湾元を得た。これを元にNECおよびアルカテル・ルーセントから基地局の提供を受け、WiMAXサービスのテストベットを構築した。このテストベットを活用して、ヘルスケア、モバイル用ポータルサイト、コマース、セキュリティーサービス、VoIPなどの実証実験を行い、冒頭で述べたように、WiMAXライセンス取得事業者のトップを切って商用WiMAXサービスの提供を開始した(http://www.tatung.net.tw/images/DM.jpg)。

 大型基地局は海外、小型基地局およびCPEは台湾メーカー、さらに日本のUQコミュニケーションズ、米国のスプリントと技術提携し、サービスを展開している。

 大同電信のサービス戦略は、以下の5点に集約される。

①M-Taiwanプログラムの経験、実績をベースにした早期のサービス提供開始
②WiMAX、LTE(Long Term Evolution)の両方に対応可能なIPネットワークの構築
③キラー・モバイル・ネットワーク環境の整備によるインターネット・アクセスサービスの提供、加入者の獲得
④インターネットアクセスに特化したサービス
⑤PC、電話等多様な端末からアクセス可能な環境の提供

 料金体系は、定額制(モバイルのみ月額799元もしくは固定のみ月額749元、接続機器無料)と、1カ月30時間以内339元(それを越えると毎秒0.0083元、接続機器1,999元)の2つに大別できる。モバイル、固定とも利用可能なサービスプラン(月額799元、接続機器 999元)も用意されている。

 今後、順調に行けば2010年1月にVoIPによる音声サービスが始まる予定だ。将来に向けてLTEも利用可能な基地局を建設するなど、オープンスタンダードな状態も整えている。台中、台南全域までサービス提供エリアを拡大する計画だが、現在は金融危機の影響、LTEの技術動向を考慮し、エリア拡大のスピードを落としているようだ。


今後の展開

 台湾では、政府が先導してWiMAX関連機器市場、特にWiMAXのCPEを中心に、新興国まで視野に入れてグローバル展開を進めている。

 WiMAXサービスの立ち上がりそのものは、ライセンス交付時のスケジュールから遅れているものの、この遅れを取り戻すように、2009年第4四半期から2010第1四半期にかけて、全球一動をはじめ他のライセンス取得事業者が順次サービスを開始するもようだ。

 その間も、CPEを中心としたWiMAX関連機器市場は進化を続け、より安定的に電波を受信できるUSBドングルとAPルーターがセットになったタイプのCPE、WiMAX用のチップやモジュールが内蔵されたノート型パソコン、組立式の基地局などが、インド、マレーシア、南米等の新興国にも提供されるようになり、グローバル展開を着実に進めている。WiMAXをベースにした台湾のICT産業の国際展開に、今後も注目していきたい。

 最後に、本稿をまとめるにあたってご協力下さった台湾の関係者の皆様に、心からお礼申し上げるとともに、水害からの1日も早い復興を願ってやまない。

<筆者紹介>片瀬 和子(かたせ かずこ)
未来工学研究所 情報通信研究センター長 主席研究員
民間のシンクタンク勤務等を経て1991年未来工学研究所入所。「豊かな社会を実現するために、どのように新しい技術を活かすべきか」という視点から、情報通信関連の調査研究に従事。最近の主な調査研究分野は、サイバー・コミュニティ活動及び関連ビジネス、ブロードバンド関連サービス、欧州・韓国におけるブロードバンド・ICTの利活用。教育機関・行政機関の情報ネットワーク化。デジタルコンテンツ関連ビジネス等。

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